タフらいと誕生物語【第5章】(1)

葛藤と決断(母)

 そこに気がついた私は、今度は、とてつもなく大きな葛藤に苛まれた。

 理想を追い求めるなら、なぜ、自分でやらないのだ。人を責めるだけの資格は果たしてあるのだろうか。良いものであると信じているならば、全てを投げ打ってでも、その普及に全身全霊を投げ打って進めば良いではないか?という事である。

 しかし、それは、安定した大企業の生活を捨て去ることを意味していた。私には、家の35年ローンが残っており、私立の高校と中学に通う愛しい子供達がいた。家族を路頭に迷わせるわけにはいかない。そして、事業の成功は極めておぼつかない。なにせ、今まで誰も見向きもしてくれなかった商品なのである。

 しかも、私はそれを推進しようにも、それができるだけのものを、本当に何一つ持っていなかった。一般市場に売った経験もなく、製造知識もなく、資金もなく、販売ルートもなく、自分では回路図すら読めない。
 こうも思った。もしかしたら、“この技術は間違いなく社会のためになる“等という信念は、自分の勝手な思い込みなのかもしれないと。もし、本当に必要な存在なら、なぜ、今まで誰一人、本気になって動いてくれる仲間が見つからなかったのだ、と。


 『やめてしまえ。今までよくやったよ』

 こう囁く自分がいた。今、これを放棄しても誰も私を非難する事はない。誰に迷惑をかけることもない。人生において、こんなことをここまで挑戦した、という自分なりの勲章もできたではないか。酒飲み話でも結構面白いネタになるはずだ。こう言う自分がそこにはいた。